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2005年12月29日

リーディング・エッジ・デザイン展 “MOVE”

12月の上旬に、Suica用の自動改札や、ケータイで動画を見ることについてのコンセプトモデルになった「OnQ」をデザインしたリーディング・エッジ・デザイン(LED)が初の個展を開いた。

展示していた物は、ほとんどが市販されてない、いわば「プロトタイプ」と呼ばれる物ばかり。企業の依頼で製作したコンセプトモデルや、イベント向けの展示物、あるいは研究用のロボットだったりと、なかなか間近には見られない物ばかりで楽しかった。

会場でmorph3やHallucigenia 01のデモをしていたfuRoの古田貴之氏が言っていたが、LED代表の山中さんのデザインは、機能をすべて理解した上で必要なカタチに落とし込むので、不必要にどこかを覆ったりするカバーがいらないそうだ。それにしても、見ていて本当に美しい。

【参考】PC Watch:リーディング・エッジ・デザイン、プロトタイプ展“MOVE”を開催






2005年12月18日

川田工業「isamu」プレス公開レポート<2001/11/13>

 突然、インターネット上に登場して話題となった川田工業のロボット「isamu」。これまでロボットとはまったく関係のないと思われていた企業からの発表とあって、その能力や、真偽すら疑われたが、実際にその目で見たロボットは、スゴいものだった。

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 基本的なことはPC WatchZDnetMYCOM PC WEBの記事を読んでいただくとして、記事にはなっていない細かい項目を拾っておく。

●ボディ

 ボディはジュラルミン合金製で、板金(プレス)や無垢材の削りだしで製造。現在のところisamuはこれ1台のみで、研究用ということもあってコスト度外視で作られている。加工精度は素晴らしく高度で、関節部のパーツの合いや、細部の処理などにはモデラーの端くれとして感動を覚えたほどだ。この加工精度こそ川田工業が井上・稲葉研から選ばれた理由でもある。

 両者の関係だが、川田工業と井上・稲葉研の間には、もともと繋がりはなかったそうだ。井上・稲葉研がH6、H7を開発する際、出来るだけソフトウェアに専念するために、ハードウェアの製造を任せられるだけの技術力をもったメーカーを探しいたら、井上・稲葉研のOBがたまたま川田工業と取引のある会社に勤めており、紹介されたのが縁だとのこと。川田工業自身、人型ロボットこそ開発していなかったものの、自立飛行が可能な無人ヘリコプターの自社開発も行っており、たしかにこれ以上に適任なメーカーはそうはないだろう。

 ジュラルミン合金製のモノコックボディは非常に軽量で、isamuはメカメカしい外見とは裏腹に、150cmで55kgと人間並みの体格におさまっている。重量は胴体のフレームだけで4kg、足は片側モーター込みで10kgを切っているとのこと。一つ聞き忘れたのが、カーボンファイバーなどのジュラルミン以外の材料を使用しているのか、また使用する可能性について。この辺は機会があったら聞いてみたい。

 各部のモーターには、ロボットではおなじみのマクソン製。サーボ、およびサーボアンプは井上・稲葉研の協力で自社開発したという。他に、減速機やロータリーエンコーダなどについても聞いたのだが、門外漢なので失念してしまった。

●頭脳

 isamuの頭脳部分にあたるコンピュータは、Pentium III 1GHzのデュアルということ以外に詳細は公開されていないが、これは井上・稲葉研からの要請によるもの。しつこく食い下がって少し聞き出せたことは、基本的にすべて市販のパーツを使っており、コンピュータ回りに関しては通常のPCとほとんど変わらないものだとのこと。実際にisamuのボディから見える部分で確認できたパーツも、メルコ製の無線LANカードやノーブランドのIEEE1394増設用PCIカードなど、秋葉原で見覚えのあるものが多かった。ただし、それ以外のオリジナルカードらしきものも見えたので、この辺が詳細が公開されていない所以のようだ。

 また、CPUにPentium IIIを選んだ理由もハッキリと聞くことは出来なかったが、ロボットでよく使われるOSのRT-Linuxが動くというのが挙げられると思う。ロボット系の研究室のホームページを見るとわかるが、オープンソースという点、Cで書かれている点などが研究目的での利用しやすさとなって、制御系にRT-Linuxを用いるところが非常に多い。ロボット学会でもRT-Linuxに関するセッションが独立して行われるほどだ。

 また、CPUがデュアルなのは、isamuのように環境に対してアクティブに動作する場合、リアルタイムで複数の処理を同時に実行する必要がある。以上の条件に当てはまり、かつ簡単に入手できるのがPentium IIIだったのだろう。

 なお、現時点でもCPUのパワーを限界まで使っているといい、このため発生する熱量もかなりのものになっている。isamuのボディにはCPUの冷却用のファンが表から確認できるだけで3個もついており、合わせると歩行用モーター並の騒音を放っていた。CPUパワーも、あればあるほど良いとのことで、上位のCPUに替えることで動作速度自体も向上するだろうとのことだ。

 余談だが、isamuの発表会場にはインテルの広報担当者も招待されており、興味深げにデモを眺めていた(さらに余談だが、ライターのKさんの結婚式にも出席するほど業界内で顔が広い人)。ただし、現在のところインテルが川田工業に何か協力しているわけではなく、こういったロボットに自社のCPUが採用されること自体が珍しいため、今後の参考になればと参加したという。もしかしたら、今後のインテルの新しいCPUの発表会で、新CPUを搭載したisamuの後継機がデモンストレーションを行うなんてことがあるかもしれない。また、インテルはここ数年、一般ユーザーにとってはもてあましつつあるCPUパワーの使い道をアピールすることに懸命で、CPUパワーを必要とするヘビーなアプリケーションの開発を支援している。PC上で動作するロボットの開発ツールが普及したら、もしかしたらインテル主催の個人向けのロボットコンテストなんてのが開催される可能性もある。

●その他

 この日に行われたデモは、外部のジョイスティックによるリモートコントロールのみで、自立モードによる歩行は見せてもらえなかった。isamuの特徴である「つま先」を用いた歩行は、現在のところ自立モードでのみ可能なため、これもビデオでのみの紹介となった。この「つま先」に関しては、可動範囲や制御に関する詳細は聞けなかったが、井上・稲葉研で研究していたもので、H7にも実装されているらしい。また、この辺が川田側で詳細を公開できない理由かもしれない。

 また、ジョイスティックによるコントロール(川田では「ジョイウォーク」と呼ぶ)は、ノートパソコンに繋がれた市販されているマイクロソフト製のジョイスティックによって行われている。このジョイスティックの操作が専用アプリケーションによって無線LAN経由でisamuに伝えられる。なお、アプリケーション自体は非公開で、画面すら見せてもらえなかった。また、ジョイスティックの信号も、isamu側に送っているのは単純なコマンドとのことだが、コマンドの詳細も不明だ。

 最後に、総合的な感想を。歩く様子はかなりスムーズで、国内ではホンダのASIMOに並ぶ唯一のロボットだろう。明確に較べたわけはないが、歩行速度はASIMOの方が上だが、斜め歩行や旋回などのスムーズさはisamuの方が上に感じた。ただし、11月12日に発表された新型ASIMOは、テレビで見ただけだが歩き方がかなりスムーズになっていたので、逆転している可能性もある。どちらにしろ、現在のところ国内ではトップクラスのロボットには変わりはないが、川田では個別の取材を受けていないため、実際に見る機会は非常に限られている。早く、こういったロボットを身近で体験できるような環境が実現して欲しい。

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人間協調・共存ロボットシステムの研究開発(HRP)中間成果発表<2002年4月10日>

 発表の概要はPC Watchの記事にまとまっているのでそちらを読んでいただくとして、ここでは記事にはならないような細かな点を拾っておく。

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 その前に、右の写真は質疑応答で答えるHRPサブリーダーの東大・舘教授。左がプロジェクトリーダーの東大・井上教授で、右が産総研の比留川 研究グループ長。質疑応答では一応、製造科学技術センターの人が司会をしていたのだが、完全に井上教授が仕切ってしまっていた。最後にまとめとして舘教授がコメントを求められ、それに答えてリモートエグジスタンスやアールキューブなどの持論を述べているのがちょうどこの写真。

 なお、舘教授の著書『ロボット入門(ちくま新書)』(筑摩書房)にはこの辺りが詳細に記されており、2足歩行や重機の運転、HRP-2の出渕デザインなどの目立つトピックに埋もれがちなHRPの根幹理念を知るための重要な副読本になっている。

●プラント保守

 デモンストレーションはHRP後期に行なわれる5分野の研究それぞれについて行なわれたのだが、ここでは個人的に興味深かった3分野に関してのみ扱う。

 今回のデモの中でロボットがもっとも歩き回っていたのがこのプラント保守。不整地ではないが障害物競走並に関門のあるコースを自立的に歩き回っている。歩行は、踵から足と着地させるもともとのホンダのロボットの歩き方をしていた。なお、このデモ使われたHRP-1はソフト・ハードともホンダP3ベースのもので、ソフトウェアを産総研で開発したHRP-1Sは代行運転のデモに用いられている。

 このデモでは、床に貼られているICタグを読みとることで、現在地や次の動作などを知り、自立的に行動している。ICタグは約1Kbit程度の容量を持ち、ロボット側からは読みとりだけでなく、書き換えも可能。リーダはバックパックの底の位置に取り付けられている。ICタグの大きさは目測で6~8cm×8~10cmの長方形で厚みは1cm前後。この程度だとHRP-1が踏んづけても何の問題もなく歩いていた。

 ICタグだけでは正確な位置決めをすることができないため、階段などの障害物の場所を正確に示す磁気テープが床に貼られている。足の外測部にある黒い物が磁気テープリーダ。これが両足にあり、二つのリーダがそれぞれ磁気テープを検出することで、左右と前後の正確な位置合わせが可能。床に貼ってある青いテープはルートを示すためのただのビニールテープで、磁気テープは床とほとんど同じ色のため写真では判別不能。

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●運転代行

 大きな動きがないためTV局には絵的に地味で放映で使えないと言われていたが、個人的にはもっとも興味深かったデモ。

 ロボットによる運転では、HRP前期に立ち乗り型のフォークリフトによるデモが行なわれており、ROBODEX 2002でも公開されたが、後期は通称バックフォーと呼ばれる大型のショベルカーを操作させるのが目標。ただし現在の所は模擬操縦席を用いての研究で、実物のショベルカーは秋以降になる。

 最終的には自ら操縦席に乗り込んで着席させるところまでいきたいそうだが、今のところは模擬操縦席の上にクレーンで吊るされたまま運ばれており、座るときもおそるおそるといった感じで、かなりゆっくりと座っている。下の最初の3枚の写真がちょうどその様子だが、「よっこいしょ」いう声が聞こえてきそうである。

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 あまり知られていないが、現在ある2足歩行ロボットのほとんどが座ることができない。というよりも、座ることをまったく想定していないため、このデモではイスの部分に発泡ウレタンで作った専用のイス(というより治具)が備え付けられている。大きな写真で見るとわかるが、HRP-1Sのおしりの部分とバックパックの底部がちょうど収まるように造形されている。

 模擬操縦席は5枚目の写真に写っているラジコンのショベルカーに連動しており、さらにこのラジコンの操縦席の位置にCCDカメラが仕込まれ、運転者の視点からの映像が模擬操縦席の前に吊るされたスクリーンに投影されている。そしてHRP-1Sが見た映像を、ミニマムコックピットに座る人間が見るという、少々ややこしいことになっている。

 余談だが、このラジコンとその前にある工事現場を復元したジオラマが異常に良くできており、CCDを通して見るとまるで本物の工事現場と見まごうほど。災害現場に散乱する倒木を模した小枝まであって、説明されるまではスクリーンの映像を外で撮影してきた実写だと思いこんでいた。それと、ジオラマの中にいる2機の小さなHRP-1(目算で10cm前後)もひどくできが良い。知る限りではこの大きさのホンダP3のプラモデル・フィギュアは市販されていないので、おそらく研究者の誰かによるフルスクラッチなのだろう。見ていて欲しくなった(笑)。以上、余談終わり。

 さて、ミニマムコックピットだが、前期研究で開発された半天周スクリーンを持つスーパーコックピットのサブセットで、どこにでも持ち運べるようになっている。主なインターフェイスは、操縦者の腕の動きを伝えるマスターアーム、脚の動きを伝えるマスターフット、ロボットの視点を写す裸眼立体視ディスプレイの3点。

 マスターアームは見ての通り、青い部分を握って動かすことで、ロボットが操作者の動きをトレースする。パトレイバーで泉野明がイングラムにあやとりを教えていたが、残念ながらあそこまで簡単にはいかないようで、動かすにはだいぶコツがいるように思われた。マスターアームの可動範囲に対してロボットの腕の可動範囲が小さくなるようセッティングされているらしく、腕を動かすためには何度もマスターアームを細かく操作していた。パソコンのマウスにたとえると、カーソルのスピードが遅く設定されていて、マウスを何度もマウスパッドの上で同じ方向に動かさなければいけないようなものか。確認し忘れたが、首の操作もマスターアームの指先に当たるスイッチで行なっていたように見えた。

 足元を見ると、踵に青いリボンがついているだけだが、このリボンがすぐれもの。ただのリボンではなく中に導体がとおっていて、これ自体がセンサになっている。脚を動かすとリボンの曲がり方に変化が生じ、それによって脚の位置をかなり正確に検出できる。着座した後に脚の位置を修正していたが、このマスターフットによって微妙な調整がなされていた。

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●共同作業

 最後は人とロボットの共同作業。ROBODEX 2002でも実演した人と一緒に机を運ぶというデモを行なった。

 HRP-2Pはまだ完成してから間もないためまだ多くの動きができるわけではないが、それでも3月の発表時には見られなかった、体操のように上半身を腰から左右にひねる動きをしていた。

 ムービーで見るとわかるが、HRP-2Pの歩行時の体の揺れに対して、手の制振動作はまったく行なわれていないので、運んでいる机がかなり揺れている。机程度の重量なら相手の人間で十分カバーできるが、これがもっと重いものならそれも難しくなるだろう。素人目にはその辺が今後の課題に見えた。

 机を運んだ後は、報道陣の前まで歩いてきて深々とお辞儀をし、デモは終了。なんか見たことあるなぁ、と思ったら川田工業のisamuも同じようなことをしていた。てことはこのパフォーマンスも川田の人がやらせたのかな?

 お終いに出渕裕デザインになるHRP-2の成果機について。正確な時期は10月の予定だそうだ。またデザインも、現在のHRP-2Pにそのまま出渕裕のボディをかぶせた物になるのではなく、プロポーションなどもう少し見直して格好良くしたいと、比留川氏が言っていた。やっぱり気にしていたんだなぁ。これで秋の楽しみが一つ増えた。

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●関連リンク

■産総研 働く人間型ロボット
http://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr20020410/pr20020410_0.html ■K.Moriyama's diary "HRP-2 Prototype & SDR-4X" Special(独断と偏見のSF&科学書評)
http://www.moriyama.com/diary/2002/HRP2&SDR-4X/HRP2&SDR-4X0319.htm

2005年12月15日

ヒトは働き、ロボットは働かず(『萌えてはいけない』補遺)

ちょっと時間がたってしまったが「萌えてはいけない」に関して追加。以前にアップしたメモでは終盤の議論をバッサリと落としてしまったが、主にその点に関してのこと。

まず、夏目房之介氏のブログより「毎日新聞の「萌えてはいけない」記事」を見て欲しい。

記事中〈杉山学長が「インフラの整備がジャンルの底辺を広げる」と[国策による振興を・引用者註]支持したのに対し、岡田さんが「数多くの作品がはん濫するのはジャンルにとって悪」と反論。夏目さんも「日本のマンガやアニメが成功した理由の研究に予算を使うべき」と主張した。〉とありますが、かなり不正確です。
 まず杉山さんは、僕の記憶のかぎりでは別に積極的に「支持」してない。「そういう動きをどう考えたらいいか」と問題提起したはずです。次に岡田さんは、別に反論はしてないし、岡田発言として書かれている内容は彼の発言ではなく、他の人の疑義だった気が。「インフラの整備がジャンルの底辺を広げる」というのは岡田さんの発言で(より正確には「底辺が広がればいい作品も生まれる」だったと)、僕がそれを支持した。大月さんがそれに疑義を呈し、冨野さんが大月さんに同調して、岡田・夏目と対立した論点だったと思います。僕の発言とされる内容はたしかにそうですが、僕も国策に反対はしてなくて、ただ政策的にできるのはインフラの整備であって、経済発展でもそうであったこと。やるんなら賞なんか創るよりも、ちゃんと(海外も含めた)現状を認識できるだけの調査・研究を支援しろ、という趣旨でした。

このエントリ自体は毎日新聞の報道の誤認をただすものだけど、終盤の議論に関してちょうど良いまとめになっている。そして、さらに杉山学長は、日本のアニメーターの待遇の悪さについても言及し、それを改善しなければ日本のコンテンツ産業に未来はないのでは、といった主旨の発言を行っていたはず。

面白いのはここから先で、岡田斗司夫がかつてアニメ製作会社(ガイナックス)の社長だった経験から、アニメーターの製作に対するインセンティブは給料を上げることでは高まらないと発言した。優秀なアニメーターに高額な給料を払うようにしたところ、とたんに良い食事を食べ、服装に気を使い出し、生産性が落ちていくところを目の当たりにしたという。

岡田斗司夫は、だいぶ笑い話めかしていたし、あえて一般化せずに経験談として話したが、これは一時期もてはやされた、企業の人事評価における成果主義に対する反省とまったく同じことだろう。

成果主義やそれを導入するに至った(正しい意味での)リストラの評価は専門家に任せるが、1つだけ言えるのは成果主義には共産主義と同じ匂いがして、それは人間は基本的にナマケモノだってことを忘れていることだ。

ついでに、日本企業の話しをすると、12月5日にソニーのリストラについての報道があった。

ソニー、管理部門で早期退職募集
 ソニーは5日までに、国内の管理部門の社員を対象に、早期退職者の募集を開始したことを明らかにした。同社は先に、平成19年度末までに全世界で人員を1万人減らす経営再建策を決定。その一環として行う。ただ、薄型テレビなど主力事業のエレクトロニクス部門で、開発・生産力の低下を避けるため、技術系社員を対象外にした。

特に最後の一文。たぶん、日本中の人間が、何を今さらと思ったことだろう。確かに人件費の削減は簡単にコストを圧縮できるから、管理部門や、しいては株主に取っちゃ楽ちんな手段なんだろうけど。しかし、人的資産の削減は生産性の現象に直結しているんだから、それを自ら手放してバランスシート上の数字あわせをやったって、そこに将来があるはずがない。閑話休題。

それでは、人を働かすにはどうやったらいいのか。たぶん大多数の人はなんとなくわかっちゃいるけど、それをシステムに落とし込むのが大変なんだ。たとえば、はてなの試み(例その1その2その3)は、大変おもしろいけど、今のところ小さな会社だからということと、社長が近藤さんだからこそ、うまくいっていると言える。つまりは、どこでもできるこっちゃない。

ちょっと目を上げると、経済学の分野でもきちんと考えている人はいる。かってbk1で山形浩生が書いたコラムからの引用。

 コーン『報酬主義をこえて』(法政大学出版局)。人に仕事をさせるにはどうしたらいいか? ニンジンをぶら下げて、あめとむちで仕事をさせればいい、というのが普通の答え。だから企業は、ストックオプションや業績連動のボーナスで従業員の尻をたたくし、親や教師は子供に「百点とったらごほうびあげる」と言って勉強させる。でも、これはまちがっている、というのがこの本。仕事や勉強そのものが楽しいから仕事や勉強をする、というのがいちばんいい成果をあげるのであって、お金のために仕事をさせると、関心がお金のほうに移って仕事の質が落ちる! ハッカーたちの、フリーソフト開発においても理論的根拠の一つとなっている本。おもしろいです。
 この本を読んで興味を持った人は、この人の前の邦訳『競争社会をこえて―ノー・コンテストの時代』(法政大学出版局)も読んでみよう。パフォーマンスをあげるためにはとにかく競争させるのがいちばん、という常識に対して、競争を過大にあおると、汚い手を使って順位をあげたがるやつが出てきて、逆に全体のレベルを下げることもある、という指摘。もちろん、これがすべての場合にあてはまるわけじゃない。健全な競争や健全なインセンティブの威力は、なんだかんだ言いつつ実証されている。ただ、特にクリエイティブな面においてそれがどこまで効くか、という点と、仕事したくない人を競争やえさで釣るよりも、その仕事自体に興味をもたせる方策を考えるほうが、ときには有効かもしれないという点はだいじ。

いまだに純粋競争による市場万能主義を唱える人もいるけど、とかくこの世は非対称。情報も資源も時間も資産もネットワークも、すべて平等ではあり得ない。その状況で、いかに皆が不幸感を抱かずに生きていけるか、が今の社会設計のベースとなるべきだろう。

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2005年12月14日

テレビ番組の解体とソニーの復活

ソニーから発売されたHDDレコーダー「Xビデオステーション」は、かなり特異な製品だ。基本的な製品の内容については、PC WatchAV Watchの記事を読んでもらうとして、ここではその先を考えてみよう。

多チューナー+大容量HDDの製品を作ること自体は、どのメーカーであっても技術的には簡単だろう。しかし、2011年にテレビの地上アナログ放送が停止するという事実を前にすると、一般的な家電製品というジャンルで発売することは、メーカーとしてはためらってしまうだろう。

チューナーとディスクを増やせば、当然価格は上がる。しかし、あと数年で使えなくなってしまう製品の企画を通す企業はそうはない。Xビデオステーションも、家電よりもライフサイクルが短いパソコンの周辺機器という扱いだからこそ、発売できたのだろう。だが、これは実は大きな変化の第一歩なのかもしれない。

検索エンジンの高度化が進み、さまざまなコンテンツがデジタル化され、検索可能になっているが、まだ遅れている分野がある。それが放送だ。放送と通信の融合という大きな問題以前に、TVに関する情報の検索は不十分な状況で、それが放送される前ならなおさらだ。

Xビデオステーションによって、一定期間のすべての放送を個人で蓄積できるようになったものの、そこから見たい番組を探すには、現状では番組表を眺めて自分の目で探すしかない。

もう一歩踏み込んで音声やキャプション、字幕を自動的にテキスト化して検索できるようになったらどうだろう。Google newsのように、その日に放送された番組からキーワードに引っかかった場面だけをピックアップして、自分だけのための番組が作られる。

実際に放送中のテレビやラジオをリアルタイムで検索して、楽曲やCMをリスト化するサービスは実現している。技術的には、放映されている音声をリアルタイムでテキスト化したり、波形から楽曲を検索したりする技術はすでに完成している。それが公開サービスとなっていないのは、単純に権利関係の処理が困難だからに過ぎない。

放送されたTV番組の内容を自在に検索したいというのは誰もが思うことだろう。需要があるなら当然、供給しようと考える人も出てくる。そして、とある最大手の検索エンジン会社は実際にそれを行っている。世界の主立った国で、すべてのTV番組を録画し、せっせとアーカイブを作っているのだという。これを教えてくれたのは日本のインターネットを作った某教授なのだが、オフレコだったので一応名は伏せる(笑)。

実際、さまざまな制約の多い現在の放送では、放映された番組の内容をすべて検索できるようにするというサービスは、すぐに実現することは難しいだろう。しかし、テキストベースではカスタマイズされたコンテンツの需要があるなら、動画にも同様な需要は考えられる。アメリカでのTivoの成功は、まさしくそういった需要に支えられたものだ。

テキスト以上に見る側の時間を拘束する映像だからこそ、カスタマイズの需要はより高いと言える。たとえば、iTunes Music Storeによって楽曲を1曲単位で買うという習慣が定着しつつあり、音楽CDのアルバムという枠組みが崩れ始めている。同様に、Xビデオステーション+番組検索というソリューションが、TV番組という枠組みを壊すきっかけになるかもしれない。

そして注目すべきはそういった製品がソニーから登場した点だ。最近のソニーは業績がお沈子でいるのみならず、マーケティングでおおポカをやったり、SONY BMGのコピーコントロールCDがひどい代物だったりと散々だ。

だけど、こと放送に関する部分では良い線をいっている。このXビデオステーションだけでなく、PSPからも接続できるようになったロケーションフリーがそうだ。

ただ、これをもってソニーの復活の兆しと言うには性急だ。ロケーションフリーがかなり売れているとはいえ、一般的な知名度はまだ低く、社内的にはまだまだ傍流の部門だし、Xビデオステーションも実際の販売台数はそれほどいかないだろう。でも、この2つの製品には、開発者の強力なニーズに対する確信が見える。

デザインやコンセプト、マーケットなどではなく、あくまでもこういう製品が欲しい、だから作った、という開発者の自負が見えるのだ。それこそまさに、かつてソニーのヒット製品が生み出された根源ではないか。

ソニーはまだ死んでいない。この2つの製品こそがその証明だ。そして、これに続く製品こそが復活の鍵を握るのかもしれない。