ソニーから発売されたHDDレコーダー「Xビデオステーション」は、かなり特異な製品だ。基本的な製品の内容については、PC WatchやAV Watchの記事を読んでもらうとして、ここではその先を考えてみよう。
多チューナー+大容量HDDの製品を作ること自体は、どのメーカーであっても技術的には簡単だろう。しかし、2011年にテレビの地上アナログ放送が停止するという事実を前にすると、一般的な家電製品というジャンルで発売することは、メーカーとしてはためらってしまうだろう。
チューナーとディスクを増やせば、当然価格は上がる。しかし、あと数年で使えなくなってしまう製品の企画を通す企業はそうはない。Xビデオステーションも、家電よりもライフサイクルが短いパソコンの周辺機器という扱いだからこそ、発売できたのだろう。だが、これは実は大きな変化の第一歩なのかもしれない。
検索エンジンの高度化が進み、さまざまなコンテンツがデジタル化され、検索可能になっているが、まだ遅れている分野がある。それが放送だ。放送と通信の融合という大きな問題以前に、TVに関する情報の検索は不十分な状況で、それが放送される前ならなおさらだ。
Xビデオステーションによって、一定期間のすべての放送を個人で蓄積できるようになったものの、そこから見たい番組を探すには、現状では番組表を眺めて自分の目で探すしかない。
もう一歩踏み込んで音声やキャプション、字幕を自動的にテキスト化して検索できるようになったらどうだろう。Google newsのように、その日に放送された番組からキーワードに引っかかった場面だけをピックアップして、自分だけのための番組が作られる。
実際に放送中のテレビやラジオをリアルタイムで検索して、楽曲やCMをリスト化するサービスは実現している。技術的には、放映されている音声をリアルタイムでテキスト化したり、波形から楽曲を検索したりする技術はすでに完成している。それが公開サービスとなっていないのは、単純に権利関係の処理が困難だからに過ぎない。
放送されたTV番組の内容を自在に検索したいというのは誰もが思うことだろう。需要があるなら当然、供給しようと考える人も出てくる。そして、とある最大手の検索エンジン会社は実際にそれを行っている。世界の主立った国で、すべてのTV番組を録画し、せっせとアーカイブを作っているのだという。これを教えてくれたのは日本のインターネットを作った某教授なのだが、オフレコだったので一応名は伏せる(笑)。
実際、さまざまな制約の多い現在の放送では、放映された番組の内容をすべて検索できるようにするというサービスは、すぐに実現することは難しいだろう。しかし、テキストベースではカスタマイズされたコンテンツの需要があるなら、動画にも同様な需要は考えられる。アメリカでのTivoの成功は、まさしくそういった需要に支えられたものだ。
テキスト以上に見る側の時間を拘束する映像だからこそ、カスタマイズの需要はより高いと言える。たとえば、iTunes Music Storeによって楽曲を1曲単位で買うという習慣が定着しつつあり、音楽CDのアルバムという枠組みが崩れ始めている。同様に、Xビデオステーション+番組検索というソリューションが、TV番組という枠組みを壊すきっかけになるかもしれない。
そして注目すべきはそういった製品がソニーから登場した点だ。最近のソニーは業績がお沈子でいるのみならず、マーケティングでおおポカをやったり、SONY BMGのコピーコントロールCDがひどい代物だったりと散々だ。
だけど、こと放送に関する部分では良い線をいっている。このXビデオステーションだけでなく、PSPからも接続できるようになったロケーションフリーがそうだ。
ただ、これをもってソニーの復活の兆しと言うには性急だ。ロケーションフリーがかなり売れているとはいえ、一般的な知名度はまだ低く、社内的にはまだまだ傍流の部門だし、Xビデオステーションも実際の販売台数はそれほどいかないだろう。でも、この2つの製品には、開発者の強力なニーズに対する確信が見える。
デザインやコンセプト、マーケットなどではなく、あくまでもこういう製品が欲しい、だから作った、という開発者の自負が見えるのだ。それこそまさに、かつてソニーのヒット製品が生み出された根源ではないか。
ソニーはまだ死んでいない。この2つの製品こそがその証明だ。そして、これに続く製品こそが復活の鍵を握るのかもしれない。