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ヒトは働き、ロボットは働かず(『萌えてはいけない』補遺)

ちょっと時間がたってしまったが「萌えてはいけない」に関して追加。以前にアップしたメモでは終盤の議論をバッサリと落としてしまったが、主にその点に関してのこと。

まず、夏目房之介氏のブログより「毎日新聞の「萌えてはいけない」記事」を見て欲しい。

記事中〈杉山学長が「インフラの整備がジャンルの底辺を広げる」と[国策による振興を・引用者註]支持したのに対し、岡田さんが「数多くの作品がはん濫するのはジャンルにとって悪」と反論。夏目さんも「日本のマンガやアニメが成功した理由の研究に予算を使うべき」と主張した。〉とありますが、かなり不正確です。
 まず杉山さんは、僕の記憶のかぎりでは別に積極的に「支持」してない。「そういう動きをどう考えたらいいか」と問題提起したはずです。次に岡田さんは、別に反論はしてないし、岡田発言として書かれている内容は彼の発言ではなく、他の人の疑義だった気が。「インフラの整備がジャンルの底辺を広げる」というのは岡田さんの発言で(より正確には「底辺が広がればいい作品も生まれる」だったと)、僕がそれを支持した。大月さんがそれに疑義を呈し、冨野さんが大月さんに同調して、岡田・夏目と対立した論点だったと思います。僕の発言とされる内容はたしかにそうですが、僕も国策に反対はしてなくて、ただ政策的にできるのはインフラの整備であって、経済発展でもそうであったこと。やるんなら賞なんか創るよりも、ちゃんと(海外も含めた)現状を認識できるだけの調査・研究を支援しろ、という趣旨でした。

このエントリ自体は毎日新聞の報道の誤認をただすものだけど、終盤の議論に関してちょうど良いまとめになっている。そして、さらに杉山学長は、日本のアニメーターの待遇の悪さについても言及し、それを改善しなければ日本のコンテンツ産業に未来はないのでは、といった主旨の発言を行っていたはず。

面白いのはここから先で、岡田斗司夫がかつてアニメ製作会社(ガイナックス)の社長だった経験から、アニメーターの製作に対するインセンティブは給料を上げることでは高まらないと発言した。優秀なアニメーターに高額な給料を払うようにしたところ、とたんに良い食事を食べ、服装に気を使い出し、生産性が落ちていくところを目の当たりにしたという。

岡田斗司夫は、だいぶ笑い話めかしていたし、あえて一般化せずに経験談として話したが、これは一時期もてはやされた、企業の人事評価における成果主義に対する反省とまったく同じことだろう。

成果主義やそれを導入するに至った(正しい意味での)リストラの評価は専門家に任せるが、1つだけ言えるのは成果主義には共産主義と同じ匂いがして、それは人間は基本的にナマケモノだってことを忘れていることだ。

ついでに、日本企業の話しをすると、12月5日にソニーのリストラについての報道があった。

ソニー、管理部門で早期退職募集
 ソニーは5日までに、国内の管理部門の社員を対象に、早期退職者の募集を開始したことを明らかにした。同社は先に、平成19年度末までに全世界で人員を1万人減らす経営再建策を決定。その一環として行う。ただ、薄型テレビなど主力事業のエレクトロニクス部門で、開発・生産力の低下を避けるため、技術系社員を対象外にした。

特に最後の一文。たぶん、日本中の人間が、何を今さらと思ったことだろう。確かに人件費の削減は簡単にコストを圧縮できるから、管理部門や、しいては株主に取っちゃ楽ちんな手段なんだろうけど。しかし、人的資産の削減は生産性の現象に直結しているんだから、それを自ら手放してバランスシート上の数字あわせをやったって、そこに将来があるはずがない。閑話休題。

それでは、人を働かすにはどうやったらいいのか。たぶん大多数の人はなんとなくわかっちゃいるけど、それをシステムに落とし込むのが大変なんだ。たとえば、はてなの試み(例その1その2その3)は、大変おもしろいけど、今のところ小さな会社だからということと、社長が近藤さんだからこそ、うまくいっていると言える。つまりは、どこでもできるこっちゃない。

ちょっと目を上げると、経済学の分野でもきちんと考えている人はいる。かってbk1で山形浩生が書いたコラムからの引用。

 コーン『報酬主義をこえて』(法政大学出版局)。人に仕事をさせるにはどうしたらいいか? ニンジンをぶら下げて、あめとむちで仕事をさせればいい、というのが普通の答え。だから企業は、ストックオプションや業績連動のボーナスで従業員の尻をたたくし、親や教師は子供に「百点とったらごほうびあげる」と言って勉強させる。でも、これはまちがっている、というのがこの本。仕事や勉強そのものが楽しいから仕事や勉強をする、というのがいちばんいい成果をあげるのであって、お金のために仕事をさせると、関心がお金のほうに移って仕事の質が落ちる! ハッカーたちの、フリーソフト開発においても理論的根拠の一つとなっている本。おもしろいです。
 この本を読んで興味を持った人は、この人の前の邦訳『競争社会をこえて―ノー・コンテストの時代』(法政大学出版局)も読んでみよう。パフォーマンスをあげるためにはとにかく競争させるのがいちばん、という常識に対して、競争を過大にあおると、汚い手を使って順位をあげたがるやつが出てきて、逆に全体のレベルを下げることもある、という指摘。もちろん、これがすべての場合にあてはまるわけじゃない。健全な競争や健全なインセンティブの威力は、なんだかんだ言いつつ実証されている。ただ、特にクリエイティブな面においてそれがどこまで効くか、という点と、仕事したくない人を競争やえさで釣るよりも、その仕事自体に興味をもたせる方策を考えるほうが、ときには有効かもしれないという点はだいじ。

いまだに純粋競争による市場万能主義を唱える人もいるけど、とかくこの世は非対称。情報も資源も時間も資産もネットワークも、すべて平等ではあり得ない。その状況で、いかに皆が不幸感を抱かずに生きていけるか、が今の社会設計のベースとなるべきだろう。

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2005年12月15日 22:43に投稿されたエントリのページです。

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