B.M.F.Diary

Think and Feel. Future is mine.

■2007-04-18(水)

紅玉いづき『ミミズクと夜の王』

ミミズクと夜の王絵本のような叙情的な表紙。一切の挿絵がない本文。シリーズとしては続けられない内容でありながら、電撃小説大賞を受賞したという、ライトノベルから外れたライトノベル。

(あらすじ)魔物のはびこる夜の森に、一人の少女が訪れる。
額には 「332」 の焼き印、両手両足には外されることのない鎖。
自らをミミズクと名乗る少女は、美しき魔物の王にその身を差し出す。
願いはたった、一つだけ。

「あたしのこと、食べてくれませんかぁ」

死にたがりやのミミズクと、人間嫌いの夜の王。
全ての始まりは、美しい月夜だった。
―― それは、絶望の果てからはじまる、小さな少女の崩壊と再生の物語。

実際に、この作品をジャンルとして位置づけるとしたら難しい。広義のライトノベル(中高生向けの娯楽小説)には十分当てはまるが、狭義のライトノベルだと明らかに外れる。この作品が日本ファンタジーノベル大賞に応募されていたら、ここまで悩まなかったかも。ただし、こっちだったら大賞を受賞することはなかっただろう。だって、小説としてはあまりにも“まっすぐ”過ぎるから。

正直に言ってしまえば、ベタな作品なのには間違いない。でも、あまたあるセカチュー・クローンやケータイ小説とは一線を画すくらいには、きちんと「小説」している。架空の王国と魔物達の森という舞台設定を置くことで、寓話として組み立て、自分が描けないもの、描く必要のないモノを、上手く画面の外に追い出している。

だけど、そこには一切の“痛み”がない。ミミズクの苦痛、国王の苦悩、アンディの決意、夜の王の沈思黙考。どれもが解けない知恵の輪のように絡み合って登場人物を縛っているが、そこには理不尽はない。いや、唯一の理不尽としてミミズクの身の上があるけど、ミミズク自身がそれを理不尽と認めることを拒絶している。そして、理不尽に唯一向かい合う機会となるはずだったミミズクが森に来るきっかけとなった“行為”(事件や事故でなくてあくまでも意識的な行為)も、終盤にはあっさりと解消されてしまう。そこに甘美な苦悩はあっても、地獄の苦痛はない。ただただ美しい物語だ。

たかがラノベの感想を1本書くのに、なんでこんなにめんどくさい書き方するかというと、読んでいる間はとても引き込まれるのに、読み終わると反発してしまう、変な作品だからだ。美しいがベタ。その点は受け入れがたいのだけど、でもとにかく美しい物語。寓話という入れ物のおかげで、その美しさだけが純粋に際だっているのだ。

人に教えたいけど、薦めたくない。文句を言いたいけど、けなせない。そういうわけで、非常にめんどくさい小説なのだ。

ミミズクと夜の王
ミミズクと夜の王
posted with amazlet on 07.04.19
紅玉 いづき
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