2001年11月13日 公開
2004年4月14日 プロバイダ変更にともないURL等を修正
基本的なことはPC WatchやZDnet、MYCOM PC WEBの記事を読んでいただくとして、記事にはなっていない細かい項目を拾っておく。
ボディはジュラルミン合金製で、板金(プレス)や無垢材の削りだしで製造。現在のところisamuはこれ1台のみで、研究用ということもあってコスト度外視で作られている。加工精度は素晴らしく高度で、関節部のパーツの合いや、細部の処理などにはモデラーの端くれとして感動を覚えたほどだ。この加工精度こそ川田工業が井上・稲葉研から選ばれた理由でもある。
両者の関係だが、川田工業と井上・稲葉研の間には、もともと繋がりはなかったそうだ。井上・稲葉研がH6、H7を開発する際、出来るだけソフトウェアに専念するために、ハードウェアの製造を任せられるだけの技術力をもったメーカーを探しいたら、井上・稲葉研のOBがたまたま川田工業と取引のある会社に勤めており、紹介されたのが縁だとのこと。川田工業自身、人型ロボットこそ開発していなかったものの、自立飛行が可能な無人ヘリコプターの自社開発も行っており、たしかにこれ以上に適任なメーカーはそうはないだろう。
ジュラルミン合金製のモノコックボディは非常に軽量で、isamuはメカメカしい外見とは裏腹に、150cmで55kgと人間並みの体格におさまっている。重量は胴体のフレームだけで4kg、足は片側モーター込みで10kgを切っているとのこと。一つ聞き忘れたのが、カーボンファイバーなどのジュラルミン以外の材料を使用しているのか、また使用する可能性について。この辺は機会があったら聞いてみたい。
各部のモーターには、ロボットではおなじみのマクソン製。サーボ、およびサーボアンプは井上・稲葉研の協力で自社開発したという。他に、減速機やロータリーエンコーダなどについても聞いたのだが、門外漢なので失念してしまった。
isamuの頭脳部分にあたるコンピュータは、Pentium III 1GHzのデュアルということ以外に詳細は公開されていないが、これは井上・稲葉研からの要請によるもの。しつこく食い下がって少し聞き出せたことは、基本的にすべて市販のパーツを使っており、コンピュータ回りに関しては通常のPCとほとんど変わらないものだとのこと。実際にisamuのボディから見える部分で確認できたパーツも、メルコ製の無線LANカードやノーブランドのIEEE1394増設用PCIカードなど、秋葉原で見覚えのあるものが多かった。ただし、それ以外のオリジナルカードらしきものも見えたので、この辺が詳細が公開されていない所以のようだ。
また、CPUにPentium IIIを選んだ理由もハッキリと聞くことは出来なかったが、ロボットでよく使われるOSのRT-Linuxが動くというのが挙げられると思う。ロボット系の研究室のホームページを見るとわかるが、オープンソースという点、Cで書かれている点などが研究目的での利用しやすさとなって、制御系にRT-Linuxを用いるところが非常に多い。ロボット学会でもRT-Linuxに関するセッションが独立して行われるほどだ。
また、CPUがデュアルなのは、isamuのように環境に対してアクティブに動作する場合、リアルタイムで複数の処理を同時に実行する必要がある。以上の条件に当てはまり、かつ簡単に入手できるのがPentium IIIだったのだろう。
なお、現時点でもCPUのパワーを限界まで使っているといい、このため発生する熱量もかなりのものになっている。isamuのボディにはCPUの冷却用のファンが表から確認できるだけで3個もついており、合わせると歩行用モーター並の騒音を放っていた。CPUパワーも、あればあるほど良いとのことで、上位のCPUに替えることで動作速度自体も向上するだろうとのことだ。
余談だが、isamuの発表会場にはインテルの広報担当者も招待されており、興味深げにデモを眺めていた(さらに余談だが、ライターのKさんの結婚式にも出席するほど業界内で顔が広い人)。ただし、現在のところインテルが川田工業に何か協力しているわけではなく、こういったロボットに自社のCPUが採用されること自体が珍しいため、今後の参考になればと参加したという。もしかしたら、今後のインテルの新しいCPUの発表会で、新CPUを搭載したisamuの後継機がデモンストレーションを行うなんてことがあるかもしれない。また、インテルはここ数年、一般ユーザーにとってはもてあましつつあるCPUパワーの使い道をアピールすることに懸命で、CPUパワーを必要とするヘビーなアプリケーションの開発を支援している。PC上で動作するロボットの開発ツールが普及したら、もしかしたらインテル主催の個人向けのロボットコンテストなんてのが開催される可能性もある。
この日に行われたデモは、外部のジョイスティックによるリモートコントロールのみで、自立モードによる歩行は見せてもらえなかった。isamuの特徴である「つま先」を用いた歩行は、現在のところ自立モードでのみ可能なため、これもビデオでのみの紹介となった。この「つま先」に関しては、可動範囲や制御に関する詳細は聞けなかったが、井上・稲葉研で研究していたもので、H7にも実装されているらしい。また、この辺が川田側で詳細を公開できない理由かもしれない。
また、ジョイスティックによるコントロール(川田では「ジョイウォーク」と呼ぶ)は、ノートパソコンに繋がれた市販されているマイクロソフト製のジョイスティックによって行われている。このジョイスティックの操作が専用アプリケーションによって無線LAN経由でisamuに伝えられる。なお、アプリケーション自体は非公開で、画面すら見せてもらえなかった。また、ジョイスティックの信号も、isamu側に送っているのは単純なコマンドとのことだが、コマンドの詳細も不明だ。
最後に、総合的な感想を。歩く様子はかなりスムーズで、国内ではホンダのASIMOに並ぶ唯一のロボットだろう。明確に較べたわけはないが、歩行速度はASIMOの方が上だが、斜め歩行や旋回などのスムーズさはisamuの方が上に感じた。ただし、11月12日に発表された新型ASIMOは、テレビで見ただけだが歩き方がかなりスムーズになっていたので、逆転している可能性もある。どちらにしろ、現在のところ国内ではトップクラスのロボットには変わりはないが、川田では個別の取材を受けていないため、実際に見る機会は非常に限られている。早く、こういったロボットを身近で体験できるような環境が実現して欲しい。