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■2007-06-20(水) 「誌面」は出版社だけのモノじゃない [長年日記]

雑誌の記事をネットで公開するには?

あるところで、雑誌の記事がどうしてネットで公開できないのか、というのが話題になっていたので、それに関してちょっと書いておこう。

技術的なことについては雑誌や出版社、編集部ごとにいろいろあるだろうけど、僕が関わっていた雑誌はとても簡単だ。完全データ入稿のDTPでCTPだったので、最終的の紙面イメージはQuarkのデータとしてあるから、クリック一発でPDFができてしまう。実際、著者校正なんかはこうやって作ったPDFをメールで送っていた。これはホントにラクチン。

障害になるのはやっぱり権利関係。雑誌の「誌面」ってのは出版社だけの著作物じゃないんですよ。原稿を執筆した筆者の著作権。写真を取ったカメラマンの著作権。イラストを描いたイラストレータの著作権。そしてデザイナーが行なった紙面デザイン、編集者による編集にも著作権が発生する。

つまり、一冊の雑誌の1つの記事を、紙面イメージそのままに公開する(スキャンまたはPDFで)としたら、それだけでも上記の人たちすべての了承が必要なワケだ。

実際に見知った事例としては、ある雑誌が創刊時に行なっていたインタビュー記事でのことがある。この記事は、カメラマンが新規に撮影した写真を使っていたのだが、写真の権利処理にマズイことがあったため、そこで使った写真が今となってはまったく使えなくなってしまったのだ。

だから、このインタビュー記事を再利用するときは、いつも写真抜きで使っている。インタビュー記事から写真がなくなること自体も痛手だが、それよりなにより某業界黎明期の有名人たちの貴重の写真が、表に出せないという非常にもったいない状態なのだ。おっと脱線。

さて、許可が得られた場合であっても、掲載するメディアが異なると、あらたに二次使用料が発生する。出版権と公衆送信権とは別モノですから当然ですね。じゃあそこで、いったいいくら払うのか、ということが次の問題。

二次使用料っていうのは、たいていは最初の時よりも、随分と安い値段になってしまうことが多い。場合によっては「なしでお願い」なんて言い出す編集部だってある。最近ではプロモーションのために、誌面の一部をウェブで公開する雑誌も増えてきた。そういう場合は、あらかじめライターやカメラマンに発注する時点で「これ、ウェブで公開するから、原稿料(デザイン料、写真使用料、その他も)は、それ込みの値段ね」なんて言ってあるのも良くあるパターン。

まあ、たいていの雑誌じゃあ、作っている最中にはどの記事をウェブに出すかは決まってないから(そりゃモノがないうちに“効果的な露出”なんてわからんしね)、あとでウェブで公開することになった場合は、別途上乗せするなんていう気の利いた出版社も、もしかしたらあるかもしれない。

これは本当にケース・バイ・ケース。会社の金とはいえ予算の厳しい昨今、できるだけ安くあげたいのが人情だし、そもそも「ウェブは紙より安いんでしょ」なんて微妙に間違った認識のまま、ウェブも紙もないはずの原稿料まで安くしようとする人もいたりする。

実際のところウェブ専業メディアの場合、黎明期には広告もなかなか取れず予算自体が雑誌に比べると少なかったので、「今は実験ですから」という名目の元、原稿料を安くしていたっていう話しもある。ただし、これは“かつてはそうだった”ということであって、いまではそんなことはないはずだけど……。

それ以外にも、公開の方法も考えなければならない。そのままウェブページにしてしまうのか、PDFで公開するのか、はたまた雑誌のメタファーをウェブで実現するようなアプリケーションを使うのか。さらに、DRMはどうするか、画像に透かしは入れるのか、公開時のライセンスはどうするか、などなど。考えなければならないこと、処理しなければならないことが山ほどある。

どっちにしろ、ここで言いたいのは、最初から「ウェブで公開する」っていうワークフローがないと、雑誌の紙面イメージを発売後に公開するってのは、想像以上にめんどいってこと。権利者が「イヤだ」と言うだけで、そのページはそのままでは公開できなくなっちゃうんだから(実際には、仕事の関係上ごねられるかどうか、という別の問題もあるけど)。

写真とかイラストを抜けばいいじゃん、っていうごもっともな意見もあるだろうけど、その記事のキモになっているのが実は写真とかイラストだったり、事情があって本文じゃあんまりハッキリとは書けないことを写真で案に示したりしている場合には、写真を外したらまったく意味がなくなっちゃうこともあるしね。そこもまたケース・バイ・ケース。

つーわけで、オチはないけど、実際に経験した一例として、ここに書いておく。

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