■2004-05-03(月) [長年日記]
▼ アップルシード
この作品って、たぶん「フツーの人が、フツーに見て、フツーに面白い」モノを目指して作ったんだろうなぁ。でも、そのフツーの人って誰?って感じ。その結果どこにでもありそうなハリウッド風SFアクション映画のようなフィルムができあがっている。激しい戦闘シーンで幕を開けて、あれよあれよと主人公が状況に巻き込まれ、陰謀がめぐり、恋愛話もあり、トラウマが語られ、そして和解とどんでん返しと未来へ課題を残したエンディング。こーいうのが好きな人もきっといるんじゃない。「イノセンス」よりは一般受けすると思うよー(棒読み)。
とりあえず、始めにいいところをほめておこう。
「画」に関しては、背景のCGの作り込みが相当なモノ。冒頭にある廃墟のシーンは、夜でトーンが暗いこともあって一瞬実写かと思ったほど。
ただし、フィルムとしてはその作り込みを十分に生かせてないのがもったいない。あれだけの背景を3Dで作り込むと、その中をグリグリと視点(カメラ)を動かしたくなる気持ちはわかるが、それをやってしまったせいで、せっかくの廃墟がまるでミニチュアに見えてしまう。非常にもったいない。そろそろこういったCGの現場にも、本職の映画カメラマンの技能を持ち込まないとダメかもね。
キャラクタのモデリングについても、良くできている。3Dでちゃんとアニメ的な美少女を再現できているし、モーションも今回は本職の役者が演じたモノをキャプチャしているため、スムーズに人らしく動いている。
でも、そのため今度は演じている役者の技量に差が見えてきた。特にサイボーグのはずのブリアレオスは、体の大きさに動きがあってなくって違和感がでかい。かといって、手動でモーションを作り込んだら、こんどはキャプチャしたところと差が出てしまうだろうから、今は難しいところかも。今後はぬいぐるみアクターみたいに、特殊な演技ができるモーションキャプチャー専門の役者が必要になってくるかもね。
さて、それじゃあ悪口を言っておこう。脚本家は観客をバカにしてるね、たぶん。観客を感動させようと思ってやっているんだけど、そのことごとくすべっている。全身機械化したサイボーグが咳をしたときには大笑いしそうになったし、騎兵隊の登場よろしく助けが来るシーンには今どき情けなくって涙が出そうだった。
<以下ネタバレ反転>だってよ、シークレットラインで救援を呼べるなら、整備士じゃなくてESWATの本隊を呼べよ。軍隊がいる場所にノコノコあんな騒音立てながら飛んできたら、あっという間に打ち落とされてお終いだろ。他にも、あれだけのクーデター騒ぎを起こしておこながら、結局まともな戦闘もなしに戦局もよくわからないうちに投降する軍。セリフの人称が一定しないせいで、見ている側に人間なんだかバイオロイドなんだかわからず、韜晦しているようにしか見えない立法院のジジィども。原作の「人間対バイオロイド」の図式を一切理解していないステレオタイプなサイボーグ・バイオロイド差別の描写に、よくわからんペンダントにされてしまいタダの必殺技に成り下がった「アップルシード」。不満は、そのほか諸々、山のようにある。
そして士郎正宗ファンの願いは今回も叶えられないのであった。グスン。